深海魚の「ミズウオ」という魚をご存知だろうか。
深海魚というのは一部の人を除き、釣り人であっても馴染みの薄い存在だと思われる。そんな別世界の住人のようなイメージがある彼らだが、ミズウオという種類の魚は、静岡は駿河湾では冬から春にかけて湧昇流(ゆうしょうりゅう)にのって浜辺へと流れ着き、打ち上げられるというのだ。(投稿時期が秋になってしまったのは御愛嬌)
調べてみると、大型で、口が大きく開き、牙が鋭い…、そして深海魚。
男子(とくに自分)の好奇心を刺激するには十分な要素だ。
僕にはとある目標があった。
それは30歳になるまでに沖縄のオオウナギ、プレコ、そして駿河湾のミズウオに会いたい。というものだった。
ミズウオ一種のみを残して20代で3種達成ならず、惜しくも三十路になってしまったが、静岡へ行く予定を組むことが出来たので、遠路はるばる香川から静岡までクルマを走らせてミズウオを探す旅が始まったのである。
せめて31歳になるまでに…という悪あがきというべきか、20代の残り香を…という、30代へのささやかな抵抗もあった。
無駄な抵抗も良いところだ。
少々前置きが長くなったが、本題へ。
いざ静岡へ
香川県から静岡(三保の松原)までは、高速道路を使って約6時間半ほどだ。
距離にして片道500km以上。
けっこうアクティブに動いているつもりだったが、500km以上を自走するのは人生初だった。
少し仮眠をしてから、余裕をもって深夜に出発。

遠征時、荷物は軽量・コンパクトが僕のポリシー。(稀に反する時もある)
淡路島で少々仮眠してから、大阪。

大阪、吹田サービスエリアにて。
安全運転 祈願折鶴という無料のサービスがあったので、ロングドライブという事もあり、有難い気遣いとして一つ頂く事にした。

しばらく走って忍者の里。

愛知県を通過し

ようやく静岡、浜名湖。

さらに走って目的地、三保に到着。
道中、カップ麺でお馴染み「日清」の工場と富士山が並んで見える道があったが、高速道路の運転中で撮影出来ず残念。
しっかりと富士山を見たのは人生初かも。
さわやか
友人2人と現地で合流し、まずは3人で腹ごしらえ。
静岡といえばさわやかのハンバーグだ。
ミズウオは基本的に夜から…という事で

生まれて初めて食べたさわやかのハンバーグ、うまい。じつにうまい。ライスにブラックペッパーを振って食べるとイケるぞ!と友人に教えてもらい、その通りにする。これがまた美味い。
接客も非常に丁寧で僕ら3人は心底大満足だった。
……。
いやいや、ミズウオ遠征の記事ですよ、これは旅の備忘録という事で…。
第一ミズウオ発見
日も沈み、いざミズウオ探し開幕。
ヘッドライトで足元を照らしながらキョロキョロと…すると、そこに落ちていた。

干からびているが、130cmを超えるサイズだ。
思ってたより全然デカい…!大興奮だった。

大人3人、木の棒でつついてみたり、手で触ってみたりと、童心に帰ってミズウオを観察する。


すごいサイズの顎と牙だ…。ジュラシック・パークのラプトルみたいだ。
全身水っぽいという話だったが、牙だけは不用意に触れると怪我をしそうなほどしっかりしていて、硬く鋭かった。
打ち上がってから時間が経っている上に、先に見つけた人に腹を裂かれていたのか内臓を抜き取られたと思しきミズウオだったが(詳しくは後述する)、生まれて初めてミズウオを見ることが出来て嬉しかったのと同時に、次のミズウオ発見への期待が高まった。
フレッシュ・ミズウオ
その後3人で砂浜を歩いていると、これまた綺麗なミズウオが落ちていた…が、腹は裂かれていた。
同業者が多い日は、無傷のミズウオを見つけるのは根気とタイミング次第だろう。

しかし打ち上がってすぐに腹を裂かれたのみで、まだまだ新鮮なミズウオ。

このギラギラ感、初めて生きているタチウオを見た時の事を思い出す。
死んでるけど鮮度抜群だよな、食ってみよう!
って事で

身の一部を切り取ってスカベンジャースタイルで3人で食べてみることに。
噛めば噛むほど体表のヌメリと海水が口の中に広がる…水っぽいというよりもネチョネチョとした身、チクチク刺さる小骨。
しかし何とも不味…くはないけど美味くはない。でもそこまで不味くもない。
あぁ、こんな味なんだ。って事でご馳走様。
口の中に薄く膜を張ったように生臭さが残る。
後味が非常によろしくない。
が、世間が騒ぐほど不味くはなかった。

その後、波打ち際にイカを発見。
友人はヤリイカだと言っていたが、後にケンサキと判明。
刺身にして3人で食べた。
ミズウオと比較するのも申し訳ないが、美味すぎて秒で完食。
その後もミズウオは見つかるが…
こちらのミズウオは頭がなくなっていたが、内臓はそのままだった。おそらく手つかずの個体だったのだろうが、波にもまれたり時間経過でのダメージで無残な姿に。
難しい…。

その後、くそでかいミズウオを発見。
流木かと思うようなサイズ感、衝撃的だった。


一応手に持って記念撮影。
大型個体は長さのみならず、胴の太さも凄い。死んでいるのにこの存在感…。ちなみに内臓は残っていなかった。
ついに生きているミズウオを発見
海岸沿いを行ったり来たり、潮のよいタイミングでオオニベを狙ったりして少し時間を空けた後、さらに足を伸ばして海岸沿いをひたすら3人で歩き続けた。
(まれにミズウオが釣れるらしく、密かにルアーで狙っていたが不発だった。マジで難しい…。)
木くずなどの漂着物がそこそこ多い場所までたどり着いた時、
「あ、ミズウオじゃん!!」
と友人が叫ぶ。
駆け寄ってみると

うぉおおおお!!!!
ミズウォオオオオオオオ!!!
いた、ミズウオ!!しかもまだ動いてる!
生きてるミズウオを発見した僕らは大興奮だった。

虹色を帯びた銀色の体表の輝き、少し華奢な雰囲気を感じさせながらも、見慣れない深海魚独特の風貌。
大きな眼、ガバっと開いた顎に鋭い牙、妖しい輝きと背びれ…。
憧れのミズウオ、しかも生きているミズウオ。
ここまで来てよかった……。
喜びと安堵と興奮が入り混じりながら、ミズウオを観察。

背びれの膜は非常に薄く、指にぴったりと張り付くほどだ。
内臓を包む膜のような感じだった。

体側には、おそらく側線と思しきラインが入っており、ただの線かと思いきや隆起してキールになっていた。
光の届かない深海で、餌を探すための優れたセンサーとして発達しているのかもしれない。

生きているミズウオの体表は非常に美しく、いつまでも見ていたくなるほどだった。
よく見ると脂鰭があるではないか…。
ちなみに試食してみるとイカのエンペラのようなコリコリ感があり美味かった。
心ゆくまでミズウオを堪能。

一緒に記念撮影。


尻尾の付け根はオパールのような輝き。さながら深海の宝石のようだ。

会えて嬉しい!
ミズウオは何を食べているのか
期間限定で波打ち際まで打ち上がってくるミズウオだが、普段は深海に生息している為、当然深海生物を捕食している。
運が良ければ深海生物を胃袋に詰めたまま打ち上がってくる事から、深海生物を知るには非常に役立つ手がかりとなるんだとか。
稀に激レア生物も入ってきたりするらしい。
噂だが東海大ではミズウオ拾いサークルなるものがあるらしく、胃の内容物を研究しているようだった。個人的な趣味で調べている人もいるようだ。
なので見つけるたびに内臓の有無の確認を行っていたのである。
自分たちも目の前にいるミズウオが何を食べているのか見たくなるのが自然というものだ。
ご開帳
ナイフで少し切り込みを入れ、そこから指を入れて肛門まで裂いてやると内臓を傷つけずに腹を開く事ができた。
内臓周りは非常に薄く柔らかい身だった。体表の色や雰囲気だけはタチウオに似ているが、腹の薄さと柔らかさはその比ではない。

胃袋は真っ黒。

小魚はハダカイワシというらしい。
見たことが無い深海生物がわんさか出てくる。
深海のエビは真っ赤だった。

小魚に、ヨコエビまで…。こんな小さいのどうやって食べてるんだ…?

イカ、釣り人が撒いたオキアミ(?)、カニなども多数見られた。

この時、自分が唯一知っていたのはサルパ、タルマワシぐらいのもの。どうやら未知の世界はすぐそこにあるらしい。
ミズウオの身は必要分、ぶつ切りにして食べる分をキープした。
牙と違って背骨は軟かく、サクッと切れた。
別の個体では…
頭部のみが無くなっていたミズウオの腹には、まだ胃袋と内容物が残っていたので、こちらでまとめて紹介したい。
写真中央上部、サルパ、タルマワシ
他、おそらくミズウオの骨、葉っぱまで…。ほんとに何でも食べるんだな…と感心してしまう。
今回見つけたミズウオは人工物を飲み込んでいる個体は見つからなかったが、プラスチックやゴミなどを飲み込んでいる個体が時折見つかるそうだ。
ミズウオには申し訳なく思う。
東海大学のお兄さん達と
生きたミズウオを発見するという目的を果たしたので、胃の内容物は研究してる人のためにそのまま残して置いて行こうかな?と3人で話しているタイミングで、自分達が来た方向から数名のお兄さんたちがやってきた。
「ミズウオ探しですか?良かったら胃の内容物もあるんで是非…」
と声をかけると
「マジですか!!!」
と大変嬉しそう。

ミズウオ拾いと同時にゴミ拾いもしながらという素晴らしい姿勢。
すげー!すげー!!と深海生物を観察していた。内容物は持参した容器で持ち帰るんだとか。

有人撮影。左端の黒いバックパックを背負っているのが僕
新鮮なミズウオを食す
ミズウオ食べた事ある?と聞くと、
無いです。
との事だったので、さきほどまで生きていたミズウオを一緒に食べる事にした。

わさび醤油で食べると、そんな不味くない、意外とイケるかも…。と皆同じような感想。
新鮮なミズウオの刺身は、やはり世間が言うほど不味くはないようだ。

しばらくミズウオ談義で盛り上がった。
別の食べ方でミズウオを味わう

ジップロックに入れて一晩仮眠を取ってから取り出してみると、水分が幾らか抜けてしなびたような見た目になっていた。

袋の底には水がたっぷりと溜まっている。
少々水が抜けたからといって、ほぼ水の身質のこの魚の何かが良くなる訳では無いが、なんとなく調理がしやすくなったように思う。

3枚におろし、ある程度小骨を取って皮を引く。
(皮付きも用意。)
今回、ずっと試したかった食べ方をついに試す時がやってきたようだ。
ミズウオヨーグルト
前日に用意してあったヨーグルトを開封し、小さく切ったミズウオを投入する。
いやいやいや無理でしょ!!合わないでしょ!と若干のブーイングが巻き起こるが、「まあ食ってみようや!」と無理矢理抑え込む。
とりあえず可能な限り小骨を取ってみる。
友人「そうだよな、ヨーグルトに小骨あったらおかしいもんな」
なんとか状況を飲み込もうとしている姿に笑いながらクッキング。
「料理は愛情」という父の口癖を思い出す。
遠征先の早朝、健康的なヨーグルトから1日が始まる。
ミズウオヨーグルトで乾杯。
味の方は…
食べるまで友人2人は「いや気持ちわるいって!無理でしょ!」と騒いでいたが、ヨーグルトがミズウオの生臭いヌメリを綺麗にマスキングしており、砂糖入りのヨーグルトの甘さも相まって意外と美味しかった。
ナタデココヨーグルトのような感じだ。
さらに身から染み出る塩水が、ヨーグルトの甘さを引き立てているように思った。
スイカに塩をかける原理だろう。
時折小骨が口の中に顔を見せるが、小骨があるナタデココヨーグルトと思えば、ギリギリいける。
まだミズウオあるから、ほれ!とカットしたミズウオを再分配。
追いミズウオしたが、3人ともあっさりと完食してしまった。
けっこうイケる!という感想でまとまった。
見た目は完全にナタデココかアロエヨーグルトだ。悪くない、見た目だけなら100点でも良い。
加熱するとギュッと引き締まって固いイカのような食感になるそうだが、今回は生食のみとなった。
次は加熱して食べてみたいと思う。
この遠征ではミズウオを持ち帰って調理する事はしなかった。また次回、調理法を模索してみようと思う。
勝手に宣伝
X(旧Twitter)に ミズウオ解体プロジェクト
というアカウントがあると友人から教えてもらった。
打ち上がったミズウオが捕食していたモノを調べて記録、発信する活動をしており、ミズウオ好きのみならず、深海生物に興味がある人にとっては面白い投稿が多い。
boothというサイトでミズウオの食べた物を写真集として年度毎にまとめた本を販売しているらしく、現時点では2025年版を制作中なんだとか。2026年版が出たならば自分も思い入れのある年の本として購入を検討している。(もちろん2025版も)

他のユーザーのXでのミズウオ投稿からも情報を集めているようで、ミズウオ好きで作っていくコンテンツとして推していきたいところである。
興味のある方は是非、アカウントを覗いてみてほしい。
時間的、金銭的余裕があれば是非、静岡・駿河湾にも足を運び、「拾える深海魚」ミズウオを探してみてはいかがだろうか。
晴れた朝は富士山を眺め、昼はさわやかで肉を食べ、夜はミズウオ拾いに興じる。(日中でも拾えるらしいがカラスとの奪い合いになるとかならないとか)
釣りとは違う視点から魚と地域を見る機会として、この活動を繰り返していきたいと思う。
最後に
三保の松原の海岸沿いでは釣り人も非常に多く、ミズウオ拾いの方とバッティングする事が多々あるように見受けられた。
仕掛けをキャストし、竿立てに置き竿で釣りをしている人の釣り糸の真下をくぐるようにして、ヘッドライトで足元を照らしながらミズウオ探しをしている人がちらほらといたのだが、釣り人の感覚と一般の方の感覚では双方の距離感が違うのだと思う。
釣り人のマナーを一般の方に求めるのもよろしくないのだが、自分も海岸沿いでミズウオ拾いと釣りの両方を行った上で意見させてもらうと、
釣り人がいる正面の波打ち際をライトで照らしたい場合、やはりひと言声をかけるのが良いだろう。黙って置き竿の下をくぐろうとして糸を踏んでしまったり、体に糸を引っ掛けてしまうと糸や竿を傷めてしまったり、単純に人とのトラブルになる可能性がある。
釣り人は竿を振る時は後方の確認をして人に当たらないよう十分注意し、ミズウオ拾いの人は竿を振っている釣り人の背後を通る時は少し待つか、夜ならば「こんばんは、後ろ失礼します」と声かけするとより安全だろう。
釣り人側も、皆の海であるという事を忘れず、浜歩きをしている人に対して寛容で謙虚な姿勢をとる必要がある。釣り人のマナーは釣り人にしかわからない。
この記事がミズウオ拾いに興味がある人の役に立てば幸いだ。



今回の遠征で念願叶って会いたかった3匹と記念撮影をする事が出来て、本当に良かったです。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
次回は駿河湾おまけ編…
気長にお待ちください。

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